美作国の方言講座

岡山弁協会特別顧問 青山 融

美作弁って?

美作地域の人々が日常的に使っている言葉が「美作弁(作州弁)」です。広い意味では「岡山弁」に含まれますが、岡山県南東部の「備前弁」や岡山県西部 の「備中弁」に比べる と、やや穏やかで優しい響きがすると言われます。親切で人情あふれる美作人の心が、美作弁からもうかがえるような気がします。

美作弁の特徴

岡山弁の特徴のひとつに「連母音の融合」や「助詞の融合」が挙げられます。たとえば「長い」を「なげー」と発音したり(連母音の融合)、「耳は」を「みみゃー」 と発音する(助詞の融合)という現象ですが、美作弁は備前弁・備中弁に比べて、これらの「べたべた訛り」がややゆるいように思われます。

ちゃい

岡山弁は備前弁・備中弁・美作弁に大きく分けられます。それほど大差がなく、よく似た言葉なのですが、はっきりと言い 方が異 なる例のひとつが「~しなさい」という意味の「ていねいな命令形」です。共通語の「来なさい」を備前弁では「こら れえ」、備中弁では「きねー」と言うのに対し、美作弁では「きんちゃい」と言います。「見んちゃい」「食べんちゃい」など、と てもかわいい響きがしますね。

きんちゃんな

なお「ていねいな命令形」の裏返し、つまり「ていねいな禁止形」の言い方も当然ながら、備前弁・備中弁・美作弁できれい に分かれます。たとえば共通語の「来ないで」は、備前弁で「こられな」、備中弁で「きなんな」と言い、美作弁では「きんち ゃんな」と言うわけです。

ごんご

津山地方独特の方言に「ごんご」があります。「ごんご」とは「河童」のこと。昔むかし、吉井川が津山市内で湾曲する「覗き 渕」に「ごんご」が棲み、泳ぐ人を引き込むなどの悪戯をしたという言い伝えがあり、市民に古くから親しまれてきた言葉 です。市内循環バスの「ごんごバス」や真夏の風物詩「津山納涼ごんごまつり」など、津山の街のいたる所で「ごんご」の文 字に出会います。

わんてえか

今では失われましたが、昭和初期まで津山地方を中心に使われていたジャンケンの掛け声が「わんてえか」。語源のよく 分からない謎の美作弁です。かつてはそれぞれの土地でそれぞれの子どもたちが発していたジャンケンの掛け声は、今 ではテレビの影響のせいか、全国共通の「最初はグー!」に替わってしまいました。お城の西側の山下児童公園を訪ねれ ば、ジャンケンをする3人の子どもたちの銅像「わんてえかの像」に出会うことができ、いにしえの子どもたちの元気な声 が聞こえてきそうな気がします。